• 市川里美

「忙しい」は心に壁をつくる

 最近、学校での子どもとの話の中で気になっていることがある。聞くことが多くなっている。ある男の子に「この悩みはおうちの人に話したことがある?」と聞くと「お母さんは、忙しそうだから話せない」と。別の生徒も「おうちの人にも言ってみようよ」というと、「忙しいのに大変になる。言わないでほしい。」と。大人の相談の中でも同じことばを聞く。「先生(あるいは上司)は忙しそうなので、相談するのは悪いと思って」と。また「夫(妻)は仕事で忙しくて疲れている。申し訳なくて」と。それは相手を思いやってのことばでもあるけれど、「忙しい」がお互いの心に壁を作ってしまうのだと思われた。


 確かに、忙しそうにしている人には自分のプライベートの話や、他愛もない話も伝えることは憚れてしまう。まして、悩みごとや困っていることを話すことは相手に「負担をかけてしまう」という感覚が生じやすい。そうなると、誰にも話せずに一人で何とかしようとする。一人で抱え込み考えていく。そのうちに、悩みはさらに深くなり、時が経つほどに問題は悪化する。心を病んでしまうことにもつながる。挙句の果てには、ようやく打ち明けてもその相手からは「もっと早く話してくれればよかったのに」「遠慮しないで言ってほしかった」という言葉が返ってくることもある。さらに追いつめられることともなってしまう。


 今1年以上に渡る新型コロナのこともあって、みなとても忙しい。日本の労働環境をみれば一人が負担する仕事量が多くなっており、残業もし、その上家のこともとなると疲れ切ってしまうということも非常によくわかる。「余裕なんかない」「週末は疲れをとるだけ」と感じている方も多いだろう。その中でも週に1時間くらいでもゆったりとした様子を子ども、家族、部下にみせることができたらよいだろうなと思う。本当はみんなが忙しくなくなり、余裕をもって過ごせることがいいのだけれど。

 

 「忙しい」は「こころ(りっしんべん)を亡くす」という。思っている以上に恐ろしいことだと思う。