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  • 市川里美

眠れないのにはワケがある。『睡眠の科学』 櫻井武著 講談社ブルーバックス(2010)

更新日:2020年12月19日

 現在日本では、睡眠の問題を抱えている人が増えています。また日本人は世界からみても睡眠時間が短いといいます。「睡眠負債」「睡眠の質」ということばもよく聞くようになりました。以前は「睡眠を削ってがんばること」や「忙しくて寝てない」というようなことが評価されたり、自慢にもなっていた時代もありました。しかし、いまはそうではありません。良い睡眠ができてこそ健康に暮らせ、自分の能力を十分に発揮できるということが科学的にわかっているのです。

 その睡眠のしくみについて書かれているのがこの本です。著者は、睡眠や食欲に関わるオレキシンという物質を発見した人です。このオレキシンがどのような作用をするのか詳しく、わかりやすく書かれています。

 「眠れない」と訴える人に「寝ようと思えば寝られるよ」と思ってしまいがちです。また「眠くて、眠くて」という人には、「ちゃんと決まった時間に寝ないから」「夜更かししているからじゃない?」と言ってしまいがちです。生活リズムをきちんと整えることで眠りが改善する方もいるでしょう。しかし脳機能に不調があると、いくら生活リズムを整えようとしてもうまくいかないのです。

 突然眠りこんでしまう「ナルコレプシー」という病気があります。これはオレキシンをはじめとする脳内の物質がうまく働いていないことによって生じることがわかってきました。「心配事があって眠れない」というときにもこのオレキシンが関わっています。(現在、オレキシンに作用する薬が開発され医療で使われています。)


 私は脳科学に関心をもち、これらの知見をカウンセリングに活かしたいと考えています。脳科学者にはなれないのですが、知識、知見は研究や書籍から得ることができます。この本からも多くのことを得ることができました。

 

 しかし脳、ヒトもまだまだ不明な点ばかりです。知見や最新の研究をそのまま受け入れて良いとは思いませんが、副作用がないと考えられることであれば取り入れて試してみた方がよいと思うのです。精神的な症状や訴えは「精神力不足」「心が弱い」「努力が足りない」と周りから思われることも多いですし、それにより自分を責めてしまうことにもつながってしまう。それはしないでほしい。心理的問題のように見えても、脳、身体、臓器、ホルモンのいろいろな仕組みが「うまくいっていないのでは?」と視点を変えて、有効なメンテナンス、調整をすることを試してほしいのです。

 

 櫻井先生は『食欲の科学』という本も書かれています。次にはそのことについて書いてみます。

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