top of page
  • 市川里美

心理カウンセリングで行われることとは?「話を聞くだけ?」(3)

⑤心理カウンセリングは、脳、神経ネットワークに変容をもたらす

 

 心理カウンセリングでは一体なにをしているのでしょうか。何が起きるのでしょうか。心理カウンセリングの場面を見れば、相談者が話し、カウンセラーはただ話を聞くだけのように見えるでしょう。そのように見えていても、相談者には気づきが起こり、パーソナリティが変化します。あるいは、カウンセラーとのやりとりのなかで、安心、安全を感じることで、症状がなくなっていきます。


 心理カウンセリングでは何をしているか、何が起こるのかを(1)、(2)と書いてきましたが、パーソナリティーに変化を起こす心理カウンセリングの本質とは、脳や神経ネットワークそのものに変化を起こしているといえると思います。心理療法の一つ、認知行動療法という手法では、カウンセリング後には脳の特定の部位の大きさに変化が見られたという報告もあります。

 C TやM R Iなどの機器の開発にともない、脳科学、神経科学が発展してきています。その知見の中には、「心」「精神」と関連するものも多くあります。うつ病、不安症、パニック障害、発達障害(神経発達症)、強迫性症状や摂食障害などと、脳、神経、遺伝子との関連性が見出されています。心理カウンセリングでお話しされる問題の中にも、脳や神経ネットワークの観点で捉え、その変容にアプローチすることでより効果的に問題の解消に働くことが多くあるように思います。


 心理カウンセリングについてはこれまで、話すこと、関係性という観点からの説明を重ねることで、さまざまな理論を打ち立ててきましたが、そこに、脳科学、神経科学などの知見を重ね合わせると、心理カウンセリングが、脳、神経ネットワーク、生体の生理的システムに変化を起こし、症状の解消・改善へとつながるという姿がみえてきます。実はフロイトも、このような構想を持っていたようです。


 これからの心理カウンセリングは、脳科学、神経科学、遺伝学等の知見を用いることで、より効果の高いものにしていくことが可能になると考えられます。脳、神経、遺伝子に変化をもたらすものは、他にも栄養、運動がありますが、これらを組み合わせて、一人一人に適した方法を構築することができないかと私は考えています。


 脳、神経ネットワーク、生体システムが変容するアプローチというと、少々恐ろしい感じを持つ方もいらっしゃるかもしれませんが、自転車に乗れるようになること、楽器が弾けるようになること、本を読んで発想が広がること、これらも神経ネットワークの変容で生じています。脳・神経の変容によってその人らしさがなくなるということではなく、できることが増える、加わる、というイメージになると思います。そのプロセスでは、脳から見た自分自身のことを知ること、観察すること、考えることで、気づきや洞察、セルフマネジメントの力が生まれ、さらに脳、神経ネットワークが変容するという好循環が生じていくようです。


 ただ、限界はあるでしょう。「三つ子の魂百まで」というように、脳、神経ネットワークには不変な部分、変わりにくい部分もあるでしょう。それはその人の持つ個性であり、変容を目指すよりも、上手にマネジメントできることを目指す方向性が適しているように思います。

bottom of page