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  • 市川里美

グレーゾーンのつらさ 

「発達障害」「ADHD」「自閉症スペクトラム障害」というはっきりとした診断はつかないけれど、何度も同じミスを繰り返す、同じような注意を何度も受ける、忘れものや落とし物、紛失が多い、提出の期限に間に合わない、できることとできないことの差が大きい、新しい環境になかなかなじめない、こだわりが強い、人との関わりが苦手、イライラしてすぐに癇癪を起してしまう…。そんなことがかなりあるのですが、明確な医学的診断がつかない範囲のことを「グレーゾーン」呼ぶことがあります。診断という白黒の決着がつかないのでその間の灰色、グレーです。ゾーンというので、結構な幅があります。適切な環境にいるときには問題が起こりにくく、まったく目立たないこともあります。

 

 忘れ物、なくしもの、期限に間に合わない、遅刻しがちなど、一見すると誰にでも起こりうることですので、それがどれくらい大変なものか周りにはわかりにくい。ご本人から「いつもぎりぎりになってしまうので困っている」と言われても、「間に合っているのなら大丈夫でしょう」「ギリギリだけどできているからいいんじゃないか」という受け取りになってしまうことがよくあります。がんばってできてしまう。だから「かんばればできるじゃないか」となり、「がんばっていないから、できない」「もっと努力すべき」ということになる。そして、本人のとてつもない苦労が見えなくなる。期限ぎりぎりになってしまうこと、遅刻ギリギリに毎日なってしまうこと、いつもあわててやっていること、できるかどうかいつも不安で緊張してしまうこと、そういうことが頻繁に起こり、落ち込んでしまうこと。しかしのど元過ぎればそのこともすっかり忘れてしまい、また同じ状況を繰り返し、そのことにさらに落ち込んでしまう。


 そんなものすごいジェットコースターのような、嵐のような生活を送っていればそれはとても疲れます。心がもちません。大波がざぶんざぶんとやってきて溺れそうなのです。そういうことが続けば、うつ病になることもあります。

 けれど「がんばればできそう」と思われ、性格のせいと思われ、なにもサポートがないまま本人だけがとても苦しい思いをしている。グレーゾーンのつらさはなかなか周りには伝わりにくいし、「甘え」ともとらえられてしまう(ご本人がそう信じ込んでいることも多い)。思い切って病院にいっても「もっと重い人はいますよ」「軽いほうですね」などとなにもアドバイスもないまま終診となってしまい、困り果てるということも見受けられます。検査で数値としてでなくても、能力の偏りがあることは見られます。ご本人の訴えをよく聞いて、何に困っているのか一緒に考えていきたいと思うのです。

 

 グレーゾーンの方はとても増えている印象です。世の中のあり方が厳しくなっているとも感じます。フレックスタイム制で遅刻しても問題がなかったり、業務が見える化されていたりすると本来の能力を発揮できる人も多い。こういう制度が、特別な人への特別な環境ではなく、ユニバーサルになるといいのに、と思います。

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