前回、子育てについて心理学研究が言えることは何かについて書きました。「結局は正解がないのか」ということに、がっかりされたかもしれません。しかし、正解がないなかでもどの子どもにも大切で必要なものがあります。それは子どもが発信したものにできるだけ応じることです。 大人でも同じだと思います。こちらが挨拶したのに何も反応がなければ、がっかりしたり、自分が何か悪いことをしたのかもしれないと思ったりします。「無視された」と怒りを覚えるときもあるでしょう。そして「もう挨拶はしない」と思ってしまうことすらあるでしょう。 生まれて間もない子どもにとって自分が発信したものに反応してもらえるということが、この先生きていく上でとてもとても大切な土台となります。それを心理学では基本的信頼感といいます。基本的信頼感が持てないと、大人になっても人を信頼できず、常に不安に脅かされます。いくら相手が親切にしてくれても「本当は自分のことを嫌いなんじゃないか」「本当に自分は受け入れられているのだろうか」という思いにかられます。人とうまく付き合えなくなります。自信が持てず、何をしても自分はだめだと感じます。基本的信頼感はどの人にも必要なことで、小さい頃にしっかりと育てることが大切です。
それでは、「子どもが発信したものに応じる」とは、どういうことなのでしょうか。1歳くらいまでであれば、子どもが手を出したら握ってあげる、泣いたらミルクをあげる、おむつを替える、などという子育てでごくごく普通にしていることです。抱きぐせがつくからといって泣いても抱っこしないというのは、赤ちゃんにとっては訴えを無視されたことになります。やがて泣くことを諦めます。そして人を信用することを諦めるということを覚えてしまいます。自分が訴えても何も変わらない、自分はいなくてもいい存在なんだと思うようになっていきます。 3歳くらいまでであれば、子どもが指を差した方向を一緒に見ます。犬を指差していたら「ワンワン、いたね」と声をかけます。おいしそうにパンを食べていたら「おいしいね」と、もし転んだ時には「痛かったね」と気持ちに言葉を添えます。子どもが絵を上手に描けて嬉しそうな時には一緒に喜びます。
あまりに当たり前すぎるでしょうか。しかし、このように自分が何か投げかけると答えてくれるということを繰り返して、基本的信頼感が作られていきます。そして、それは小さいうちに育まれないとあとから育むことがとても難しくなります。
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