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市川里美

ヒトは一人では生きていけない 「アタッチメント・システム」のこと

 「人は一人では生きていけない」とは、どこかで一度は聞いたことがある、というよりも、言い古された言葉とも言えそうです。ほとんどの方が、「その通りだ」と思うでしょう。生きていく上で必要なものを一人で賄うことはなかなか難しいことです。特に現代の暮らしを成立させるには、自分以外の誰かの力が必要です。セルフレジになっても、通販が販売の主流となって人と関わっていないように見えても、その背後には必ず人が動いています。食べ物を全て自力で栽培し、水道・電気・ガスも使わずに生活することは、相当頑張ればできそうにも思えますが、怪我をしたら? 病気になったら? と考えると、やはり誰かの力を借りることになるでしょう。人は一人では生きていけない。


 『キャスト・アウエイ』というトム・ハンクス主演の映画があります。主人公は飛行機の事故で無人島に流れ着き、一人でサバイバル生活をします。印象的だったのは、主人公が漂着したバレーボールに話しかける場面です。「ウィルソン」と名付けて(ウイルソン製のバレーボールです)、きょうのできごと、考えたことを話しかける。誰かに話しかけるということで心の支えを得たとも言えますし、話しかけないと言葉を使えなくなってしまうでしょう。生まれてから話しかけられることがなければ、言葉を獲得することはできませんし、言語を獲得した後も、使う機会がなければ言葉を失っていく。言葉も、思考も、生命としてのエネルギーも、人との関わりがなければ活性化しない。生物としての「ヒト」としても、人からの何らかの力(関わり)がなければ、生きていけない。本来持っている生命体としてのプログラムも発動しなくなるのです。

 しかし、トム・ハンクス演じる主人公がバレーボールに話しかけようとしたように、ヒトは、生命体としてのプログラムが発動するよう人の力(関わり)を求めて行動します。大人(成体)は、何らかの経験からその行動をしたとも言えそうですが、赤ちゃんも同じように生命体としてのブログラムが発動するように人の力(関わり)を求める行動をします。生まれながらに備わっている行動です。その一つにアタッチメント行動があります。ボウルビー(Bowlby.J,精神科医、精神分析家)が見出したものです。

 

 アタッチメントとは、「くっつく」「付着する」という意味です。赤ちゃんは生物として生きながらえるために、養育者を「安全基地」として認識し求めます。泣いて求めたり、くっつこうとする。その求めに応じて養育者が保護し、赤ちゃんは安心を得ます。このような赤ちゃんと養育者の間の相互作用を「アタッチメント・システム」といいます。アタッチメント行動があり、それに養育者が応じることで、アタッチメント・システムが動き始めます。

 怖い思いが起こった時、不安になった時に保護を求めて養育者にくっつき、それに応じて養育者が保護し、安心させる。すると「アタッチメント・システム」は活性化し続けることができます。赤ちゃんはまた怖い思いをしたときに、養育者にくっつこうとします。もし養育者が保護できなかったり、赤ちゃんが安心を感じられなかった時には、養育者にくっつかなくなっていく。


 このようなアタッチメント・システムのありようは、生涯に渡り対人関係に反映されていくと言われています。友達、恋人、夫婦、同僚、パートナーとの関係に現れる。「不安で誰かに頼りたいけれど、頼れない」ということの背景には、赤ちゃんの頃のアタッチメント・システムのありようが映し出されているのかもしれません。


 アタッチメント・システムのありようには、いくつかの型(アタッチメント・スタイル)があることが見出されています。次には、このアタッチメント・スタイルについて書いていこうと思います。

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